はじめに:AIは「調べる・作る」だけじゃない
社内でも、もう当たり前のようにAIを使う場面が増えていると思います。リサーチ、文章のたたき台、画像の生成など、「聞けば返してくれる相手」としてのAIは、すでに日常に溶け込みつつあります。
今回お伝えしたいのは、そこからもう一歩踏み込んだ使い方です。
「面倒な作業を、自分の職場のルールに合わせて自動化する」──つまり、業務が少し楽になるアプリを、対話を重ねながら形にしていく流れです。専門のエンジニアがゼロから設計・実装する、というイメージだけでなく、「アイデアを持っている人が主役になる」近道でもあります。
①ざっくりしたアイデアからスタート
最初に頭に浮かんだのは、一文で言うとこんなイメージでした。
Googleドライブに置いた請求書のPDFを、AIが読み取り、必要な項目をスプレッドシートに自動で転記したい。
「手入力が大変」「毎回コピペしている」「取りこぼしが怖い」──そんな職場の具体的なモヤモヤから出発するのがポイントです。最初から完璧な仕様を書く必要はありません。
AIと何度も話して、「やりたいこと」を具体化する
ここからは、AIに一度で全部任せるのではなく、何度かやり取りしながら進めました。
- ●AIが「こういう整理の仕方はどうですか?」と提案してくれる
- ●こちらも「実際の運用だとこうしたい」と意見を返す
- ●抜けている条件(誰が触るか、失敗したときどうするか、など)を一緒に埋めていく
この往復で、「何を自動化して、何は人が見るべきか」がだんだんクリアになっていきます。 対話のログそのものが、設計の材料になっていく感覚に近いです。
②納得したら「要件定義書」にまとめてもらう
話しているうちに内容が固まってきたタイミングで、AIに要件定義書を書いてもらいました。
要件定義書とは、言うなれば「これまでの対話を、関係者が同じ理解で読める形に整えたメモ」です。
- ●何をするアプリか
- ●どういった技術を用いて開発するか
- ●固有のロジック、制約はどんなことか
を文章に落とすことで、「言ったつもり」と「聞いたつもり」のズレを減らせます。自分用の整理にもなりますし、後から別の人に説明するときの土台にもなります。
今回の対話の末に決まったこと(要件のイメージ)
今回のやり取りの中で、こういう形に落ち着きました。
- ●Googleのサービスだけで完結する(普段使っているドライブやスプレッドシートの延長で動かす)
- ●Googleドライブにフォルダを2つ用意する
- ●「処理前」:まだシートに書き込んでいない請求書PDFを置く
- ●「処理済み」:処理が終わったPDFを移しておく
- ●スプレッドシート側から操作し、ワンアクションで処理を開始できるようにする(今回はメニューからパネルを開き、その中の「取り込み実行」ボタンでスタートする形)
- ●処理の内容は次のイメージ
- ●「処理前」フォルダにある請求書PDFを、AIが内容を読み取る
- ●スプレッドシートに、日付・請求元・内訳・総金額・元ファイルへのリンクなど、必要な列に転記する
- ● 終わったファイルは「処理済み」フォルダへ移動する
「人が毎回開いて転記していた作業」を、置くだけ+ボタン一つに近づける、というゴールイメージです。
③次のステップ:別のAIにも伝わる「プロンプト(指示文)」
要件定義書までできたら、次は「他のAI(別のツール)にも同じことを理解してもらうための指示文=プロンプト」を書いてもらいました。
人間同士でも「要件書を読んでください」と渡すのと、「この一文だけでやってください」と渡すのでは精度が変わります。AIも同様で、役割・前提・入力・出力・禁止事項などを整理したプロンプトがあると、実装や修正のやり取りがスムーズになります。
AIにも「得意分野」がある
実は、AIも万能ではなく、得意な領域の差があります。
今回の流れでは、次のように役割分けしました。
- ●アイデア出し〜要件定義書までは Google の Gemini
対話で広げたり、文章として整えたりするのに向いている場面
- ●実際のコード作成は、コード生成に強い別のAI
細かい文法やエラー対応など、実装寄りの作業
「一つのAIに全部お願いする」だけでなく、フェーズごとに相手を変えるのも、今のやり方のひとつです。
④実装では「準備」と「つまずき」が必ず出てくる──そのたびにAIに相談
コードができあがったあとは、本番に近い環境で動かす準備が必要です。
- ●どこにAPIキーやフォルダIDを書くか
- ●初回だけ求められる権限の許可
- ●実行したら出たエラーメッセージの読み方
など、慣れていないと一つひとつが初めての作業になりがちです。
ただ、エラー文をそのままコピーしてAIに貼る、「今ここまでできた」と状況を説明する──そうすると、手順を分解して案内してくれたり、設定の見直しポイントを指摘してくれたりと、かなり親切に伴走してくれます。
「全部自分で調べ切る」より、「壁のたびに短く相談する」方が、結果的に早いことも多いです。
時間の目安と、変わってきたこと
今回、この小さなアプリを形にするのにかかった時間は、おおよそ2時間程度でした。
これまでなら、複数のプログラミング言語やフレームワークに慣れたエンジニアが中心になって作る、というイメージが強かったかもしれません。
一方で今は、非エンジニアの方でも、「職場の課題を言語化し、AIと要件を固め、実装を支援してもらう」という道筋で、アイデアをかなり現実に近づけられるようになってきています。
おわりに
AIは「賢い検索」や「画像を描く相手」にとどまらず、あなたの業務フローに合わせた小さな仕組みを一緒に組み立てるパートナーにもなり得ます。
最初は一文のアイデアでよく、そこから対話 → 要件定義書 → プロンプト → 実装と試行錯誤と進めていくと、読んだ方も試しやすいと思います。
社内でも「こんなの自動化できたらいいのに」があれば、まずはAIにその一文を話してみるところから、ぜひ始めてみてください。


